サラリーマン大家の確定申告|20万円ルールの落とし穴と住民税・会社バレ対策

本業の給与に加えて家賃収入があるサラリーマン大家さんが最初にぶつかる疑問が、 「自分は確定申告が必要なのか?」です。よく耳にする「20万円ルール」は 便利な基準ですが、正しく理解しないと住民税の無申告や会社への思わぬ通知という落とし穴にはまります。 この記事では、20万円ルールの正確な判定方法から、住民税・会社バレ対策、 申告フローの実例までを一気に整理します。
副業で大家業をしている方向けの全体像は 副業大家さん向けガイド にまとめています。本記事は、その中でも税金・申告まわりを深掘りする内容です。
1. 「20万円ルール」とは — 判定は収入ではなく所得
給与を1か所から受けていて年末調整が済んでいる会社員は、 給与所得・退職所得以外の所得の合計が年間20万円以下なら、 所得税の確定申告をしなくてよい——これが通称「20万円ルール」です。
ここで最も誤解が多いのが判定の単位です。20万円と比べるのは「収入(家賃の総額)」ではなく「所得(家賃収入 − 必要経費)」です。
- 年間家賃収入 84万円 − 必要経費 70万円 = 不動産所得 14万円 → 所得税の申告不要(原則)
- 年間家賃収入 30万円 − 必要経費 5万円 = 不動産所得 25万円 → 確定申告が必要
「家賃が月2万円だから申告不要」「家賃が月10万円あるから申告必須」と収入額だけで 判断するのはどちらも誤りです。まず経費を差し引いた所得を計算するのが出発点です。 経費に何が入るかは 家賃収入の経費一覧 で確認できます。
2. 20万円以下でも申告した方が得な3つのケース
「申告不要=申告してはいけない」ではありません。次の3つのケースでは、 20万円以下でもあえて確定申告をした方が有利、または申告が義務になります。
① 不動産所得が赤字 → 給与と損益通算で還付
不動産所得が赤字なら、給与所得と損益通算して課税所得を圧縮でき、 給与から源泉徴収された所得税の一部が還付される場合があります。 赤字なのに申告しないのは、還付を自ら放棄しているのと同じです。
ただし重要な制限があります。土地の取得に対応する部分の借入金利息は 損益通算の対象外です。建物と土地をローンで購入した場合、赤字のうち 土地分の利息に相当する額は給与と相殺できません(青色申告決算書・収支内訳書に 記載欄があります)。
② 医療費控除・ふるさと納税で確定申告する年
20万円ルールは「確定申告をしなくてよい」という特例にすぎません。 医療費控除や寄附金控除(ふるさと納税でワンストップ特例を使わない場合)などで確定申告を行う年は、20万円以下の不動産所得も申告書に記載する義務が復活します。 「控除だけ申告して家賃は書かない」という選択はできない点に注意してください。
③ 購入初年度は登記費用・不動産取得税で大きな赤字になりやすい
物件購入の初年度は、登録免許税・司法書士報酬などの登記関連費用や不動産取得税を必要経費にできるため、不動産所得が大きな赤字になるのが 典型パターンです。①の損益通算と組み合わせれば、初年度は還付が受けられる 可能性が高く、申告する価値が最も大きい年と言えます。
3. 最大の落とし穴 — 住民税に「20万円ルール」は無い
ここが本記事で一番伝えたいポイントです。20万円ルールはあくまで所得税(国税)の確定申告に関する特例で、住民税(地方税)には同様のルールが存在しません。
つまり、不動産所得が20万円以下で所得税の確定申告をしない場合でも、 お住まいの市区町村への住民税の申告は所得1円から必要です (確定申告をすればそのデータが自治体に連携されるため、住民税の申告は不要になります)。
住民税の申告を怠ると、後日、自治体が給与支払報告書や各種資料から所得を把握した際に住民税の増額通知や延滞金が発生するリスクがあります。 しかも後述のとおり、後から会社経由で通知が届けば副業を隠していたことが かえって目立つ結果にもなりかねません。「20万円以下だから何もしない」は 制度上、正しくないのです。
4. 会社に副業がバレる仕組みと対策
バレる主経路は住民税の特別徴収
会社員の住民税は通常、会社が給与から天引きする特別徴収で納付します。 毎年5〜6月に会社へ届く住民税決定通知書には従業員ごとの住民税額が記載されており、 給与水準に対して住民税が不自然に多いと、経理担当者に 「給与以外の所得がある」と気づかれる可能性があります。これが会社バレの主経路です。
対策:確定申告書第二表で「自分で納付(普通徴収)」を選ぶ
確定申告書の第二表には「給与、公的年金等以外の所得に係る住民税の徴収方法」 という欄があり、ここで「自分で納付」(普通徴収)に○を付けると、 不動産所得分の住民税の納付書が自宅に送られ、会社経由の天引き額には 上乗せされません。e-Taxでも同様の選択項目があります。
ただし注意点が2つあります。第一に、自治体によっては普通徴収への切り替えが 認められないケースがあります(記入しても特別徴収に合算される運用の自治体が存在します)。 確実を期すなら、申告後にお住まいの市区町村の住民税担当課へ 「給与以外の所得分は普通徴収になっているか」を確認するのが安全です。 第二に、この方法で分けられるのは給与以外の所得分だけです。
そもそも不動産賃貸は「副業」なのか
多くの会社の就業規則では、不動産賃貸は労働を伴う「副業・兼業」ではなく資産運用(株式投資などと同列)として整理されるのが一般的です。 相続で物件を引き継ぐケースもあるため、賃貸経営自体を一律に禁止する規定は 多くありません。ただし就業規則は会社ごとに異なり、規模によっては 許可申請を求める会社もあります。断定はせず、不安な場合はお勤め先の規定を 確認しておくのが確実です。相続で大家になった方は 相続で大家になった人が最初の90日でやること も参考にしてください。
5. 申告フロー実例 — 年収600万円+ワンルーム2室モデル
具体例で流れを確認しましょう。モデルケースは、給与年収600万円の会社員が ワンルーム2室を賃貸しているパターンです。
モデルケース
年間家賃収入:120万円(2室 × 月5万円)
必要経費:45万円(管理委託料・修繕費・固定資産税・減価償却費・ローン利息など)
不動産所得:120万円 − 45万円 = 75万円 → 20万円超のため確定申告が必要
申告の手順は次のとおりです。
- ① 源泉徴収票を用意する:勤務先から12月〜1月に受け取る源泉徴収票の内容(給与収入・源泉徴収税額など)を 申告書に転記します。
- ② 収支内訳書(白色)または青色申告決算書を作成する:1年分の家賃収入と経費を集計し、不動産所得用の様式にまとめます。 白色と青色の違いは 白色申告と青色申告10万円控除の比較 で解説しています。
- ③ e-Taxで確定申告書を提出する:国税庁の確定申告書等作成コーナーで給与+不動産所得を入力し、 第二表の住民税欄で「自分で納付」を選択して送信。期限は原則翌年3月15日です。
ここで重要なのは、年末調整では完結しないという点です。 年末調整は会社が給与所得についてのみ行う手続きで、不動産所得は一切反映されません。 「年末調整したから大丈夫」とはならず、不動産所得が20万円を超えるなら 別途確定申告が必要です。書き方や経費判定の詳細は 大家さんの確定申告ガイド にまとめています。
6. 記録を年中回しておけば2月に慌てない
サラリーマン大家の確定申告がつらい本当の理由は、計算の難しさではなく「1年分の記録を2月にまとめて掘り起こす」作業にあります。 家賃の入金確認、経費のレシート、管理会社の精算書——平日は本業がある副業大家こそ、 記録は日々の隙間時間に済ませておくのが合理的です。
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よくある質問
Q1. 家賃収入が年20万円以下なら何もしなくていい?
いいえ。まず判定は収入ではなく「所得」(家賃 − 経費)ベースです。 そして所得税の確定申告が不要な場合でも、住民税の申告は市区町村に必要です。 さらに医療費控除などで確定申告をする年は、20万円以下でも不動産所得の記載が必要になります。
Q2. 会社に副業がバレませんか?
主経路は住民税の特別徴収通知です。確定申告時に第二表で 「自分で納付」(普通徴収)を選択すれば、不動産所得分の納付書は自宅に届きます。 なお、賃貸経営は副業規定上「資産運用」として扱う会社が多いとされますが、 就業規則は会社により異なるため、お勤め先の規定をご確認ください。
Q3. 不動産所得が赤字なら税金が戻ってくる?
給与所得と損益通算でき、給与から源泉徴収された所得税が 還付される場合があります。ただし土地取得部分の借入金利息は 損益通算の対象外という制限がある点に注意してください。
Q4. 年末調整をしていれば確定申告は不要?
年末調整は給与のみが対象で、不動産所得は反映されません。 不動産所得が20万円を超えるなら、年末調整とは別に確定申告が必要です。
まとめ
20万円ルールの要点は3つです。①判定は収入ではなく所得、②所得税が申告不要でも住民税の申告は必要、③会社バレ対策は普通徴収の選択。 そして赤字の年や初年度は、20万円以下でもあえて申告した方が得になるケースが 少なくありません。日々の記録さえ回っていれば、判定も申告も迷う要素は ほとんどなくなります。
本記事は2026年7月時点の制度に基づく一般的な情報です。個別の税務判断は 税理士・税務署等の専門家に、就業規則上の副業可否はお勤め先にご確認ください。
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