大家の法人化はいつすべき?課税所得900万円の目安・メリデメ・後悔しない判断基準

「そろそろ法人化したほうがいいのでは?」——物件が増え、家賃収入が育ってきた個人大家さんが 必ず一度は突き当たる問いです。よく言われる目安が「課税所得900万円」ですが、 この数字の根拠を理解せずに法人化すると、設立費用と維持コストだけ払って節税効果ゼロ、 という結果になりかねません。 この記事では、900万円ラインの根拠、法人化の5大メリットと見落としがちな4つのデメリット、 3つの法人化方式の比較、そして「見送るべき」ケースのチェックリストまで、 2〜10物件の個人大家さんが判断を誤らないための材料を整理します。
1. なぜ「課税所得900万円」が法人化の目安と言われるのか
所得税+住民税の実効税率が法人実効税率を超えるライン
個人の所得税は累進課税で、課税所得が増えるほど税率が上がります。課税所得900万円超の部分には所得税率33%が適用され、 住民税約10%を合わせると約43%。 一方、中小法人(資本金1億円以下)の実効税率は、 所得800万円以下の部分でおおむね23%前後、 800万円超でも約33〜34%に収まります。
| 課税所得 | 個人:所得税+住民税(概算) | 法人:実効税率(中小法人・概算) |
|---|---|---|
| 〜330万円 | 約20%(税率10%+住民税) | 約23% |
| 330万〜695万円 | 約30%(税率20%+住民税) | 約23% |
| 695万〜900万円 | 約33%(税率23%+住民税) | 約23〜34% |
| 900万〜1,800万円 | 約43%(税率33%+住民税) | 約33〜34% |
| 1,800万〜4,000万円 | 約50%(税率40%+住民税) | 約33〜34% |
| 4,000万円超 | 約55%(税率45%+住民税) | 約33〜34% |
表のとおり、課税所得900万円を超えたあたりから個人の税負担が法人を明確に上回ります。 これが「900万円が法人化の目安」と言われる根拠です。 逆に900万円未満では税率差がほとんどなく、後述する設立・維持コストを差し引くと 法人化のほうが損になるケースが多くなります。 なお、ここでいう課税所得は「家賃収入」ではなく、 経費と各種控除を引いた後の金額である点に注意してください。
給与所得がある兼業大家は「合算後」の課税所得で判断する
サラリーマン大家さんの場合、所得税は給与所得と不動産所得を合算した総所得に 累進税率がかかります。つまり「不動産所得だけで900万円」ではなく、給与所得+不動産所得の合算後の課税所得が900万円を超えるかで判断します。 たとえば給与所得700万円+不動産所得300万円なら、不動産所得の大部分に33%の税率がかかっており、 法人化の検討ラインに乗っている可能性があります。 兼業大家の税金の基礎はサラリーマン大家の20万円ルール解説をご覧ください。
2. 法人化の5大メリット
① 税率差による節税
前述のとおり、個人の最高税率は住民税込みで約55%、 法人実効税率は約23〜34%。 課税所得が大きいほどこの差がそのまま節税額になります。 課税所得1,500万円の大家さんなら、900万円超の部分だけでも税率差は約10ポイント、 年間数十万円単位の差が生まれ得ます。
② 役員報酬による所得分散
法人にすると、配偶者や家族を役員にして役員報酬を支払えます。 給与を受け取る側には給与所得控除(最低55万円)が適用されるため、 同じ所得を1人で受け取るより世帯全体の税負担が下がります。 個人の青色事業専従者給与と違い、事業的規模(5棟10室)の要件や 「専従」の縛りがない点も使いやすいところです。
③ 経費範囲の拡大
法人契約の生命保険料(一定割合を損金算入)、役員退職金(受取側は退職所得控除で税負担が軽い)、社宅制度(自宅を法人契約にして一部を損金化)など、 個人事業では使えない経費の仕組みが解禁されます。 特に退職金は、長期で積み上げた法人の利益を低税率で個人に移す出口として有力です。
④ 赤字繰越が10年(個人青色は3年)
大規模修繕や空室で赤字が出た場合、個人の青色申告では純損失の繰越は3年ですが、 法人の欠損金は10年間繰り越せます。 築古物件の大規模修繕など、単年で大きな赤字が出やすい賃貸経営では この差が効いてくる場面があります。
⑤ 相続対策 — 不動産が「株式」に変わり分割しやすくなる
法人が物件を所有すると、相続財産は不動産そのものではなく法人の持分(株式・出資持分)になります。 持分は1%単位で生前贈与でき、不動産のように「分けられないから共有名義に」という 事態を避けやすくなります。また、家賃収入が法人に貯まる代わりに 役員報酬として次世代へ移転しておけば、相続財産の膨張自体を抑えられます。 認知症対策・承継設計の代替手段としては家族信託の活用ガイドも参考にしてください。
3. 見落としがちな4つのデメリット
① 設立コストと税理士顧問料
法人設立には合同会社で約10万円〜、株式会社で約25万円〜(登録免許税・定款関連費用等)がかかります。 さらに法人の決算・申告は個人の確定申告より格段に複雑で、 実務上は税理士への依頼がほぼ必須。 顧問料+決算料で年20〜40万円程度の固定費を見込む必要があります。
② 赤字でも法人住民税均等割 年約7万円
法人は利益がゼロでも赤字でも、法人住民税の均等割(最低で年約7万円)を 毎年納めます。個人なら所得がなければ税金もゼロですが、法人は「存在するだけでコスト」。 税理士報酬と合わせると、節税効果が年30〜50万円を超えないと法人化は割に合わないというのが実務的な感覚です。
③ 既存物件の法人移転コスト
いま個人名義で持っている物件を法人へ移すのは「売買」です。 法人側に不動産取得税(原則、固定資産税評価額の3〜4%)と登録免許税(同2%)、 個人側には譲渡所得税が発生し得ます。 さらにローン付き物件は金融機関の承諾と借換えが必要で、 金利条件が悪化するリスクもあります。 このため実務では「既存物件は個人のまま、新規購入物件から法人名義にする」 という進め方が定石です。建物の減価償却は法人側で 中古取得として耐用年数を再計算します(計算方法は減価償却の計算ガイドを参照)。
④ 長期譲渡の軽減税率(約20%)が法人には適用されない
個人が5年超保有した物件を売ると、譲渡所得は長期譲渡として約20%の 分離課税で済みます。ところが法人の売却益は他の所得と合算され、実効税率約23〜34%で課税されます。 数年内に売却して大きな譲渡益が見込まれる物件は、 個人名義のまま持ち続けるほうが有利なケースが多いのです。 個人の譲渡所得の仕組みは譲渡所得税ガイドで詳しく解説しています。
4. 法人化の3方式比較
「法人化」と一口に言っても、法人に何を持たせるかで3つの方式があります。
| 方式 | 法人に移る所得 | 節税効果 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 不動産所有方式 | 家賃収入の全額 | ◎ 最大 | 物件移転コスト大。新規購入から法人名義が定石 |
| 管理会社方式 | 管理料(家賃の5〜10%) | △ 小 | 実態のない高額管理料は税務署に否認されるリスク |
| サブリース方式 | 転貸差益(15%程度まで) | △〜○ 中 | 空室リスクを法人が実際に負う契約実態が必要 |
不動産所有方式(王道・節税効果最大)
法人が物件そのものを所有し、家賃収入の全額が法人に入る方式。 所得分散・退職金・相続対策まで法人化のメリットをフルに使えるため、これから物件を増やす大家さんの王道です。 既存物件の移転コストがネックになる場合は、新規物件のみ法人で買い進めます。
管理会社方式(管理料相場を超えると否認リスク)
物件は個人所有のまま、自分の法人に管理を委託して管理料を支払う方式。 移転コストゼロで始められますが、法人に移せるのは管理料分だけ。 実務上の相場は家賃収入の5〜10%が上限目安で、 清掃・巡回・集金などの管理実態を伴わない高額な管理料は税務調査で否認される典型パターンです。節税インパクトは小さいと割り切りましょう。
サブリース方式(転貸差益15%程度まで)
法人が個人所有の物件を一括借上げし、入居者へ転貸する方式。 法人に移せる転貸差益は15%程度までが実務上の目安とされ、 それを超える設定は否認リスクが高まります。 また「空室でも法人が個人へ賃料を払い続ける」という空室リスク移転の実態がないと、形式だけのサブリースとして 否認される可能性があります。
5. 判断チェックリスト — 法人化を「見送るべき」ケース
次のいずれかに当てはまるなら、法人化は急がず個人のままで様子を見るのが無難です。
- 合算後の課税所得が900万円未満:税率差がほぼなく、維持コスト(均等割+税理士報酬で年30万円前後)が節税額を上回りがち。 まずは青色申告65万円控除など個人のままできる節税を使い切るのが先です。
- 数年内に物件の売却予定がある:個人の長期譲渡約20%が使えなくなり、売却益への課税で法人化の節税分が吹き飛ぶ可能性。
- ローンの借換え条件が不利になる:法人への移転には金融機関の承諾が必要。金利上昇や追加保証を求められるなら、 利息増が節税額を食い潰さないか試算を。
- 課税所得900万円超が一時的:退去一時金や一時的な満室など単年の要因なら、翌年また900万円を割る可能性。「超え続ける見込み」が立ってから動いても遅くありません。
- 帳簿・収支の現状把握ができていない:物件別の課税所得が月次で見えていない状態では、税理士も正確な試算ができません。 法人化判断の前に、まず数字を揃えるのが先決です。
6. 法人化判断の第一歩は正確な所得把握から
ここまで見てきたとおり、法人化の判断材料はすべて「正確な課税所得」から始まります。 家賃収入・経費・減価償却を物件別に把握できていなければ、 900万円ラインとの距離も、税理士への試算依頼も、方式の選択もできません。
OwnersDeskは2〜10物件の個人大家さん向けに、物件別の収支・減価償却・経費を一元管理し、 課税所得ラインを毎月把握できる状態を作ります。フリープラン ¥0(1物件・3室まで)から始められ、 スタンダードは¥980/月・¥9,800/年(税込、3物件まで・室数無制限)、 AI自動分類・PDF帳票・ローン管理まで使えるプロは¥4,980/月・¥47,760/年(税込)です。 無料トライアルはありませんが、フリープランは期間無制限で使えます (有料プランの課金は申込手続き完了時に開始)。 詳しくは料金ページをご覧ください。
よくある質問
- Q1. 家賃収入がいくらになったら法人化すべきですか?
判断基準は「家賃収入」ではなく「課税所得」です。 給与と合算した課税所得が900万円を超え続ける見込みが立った時が一つの目安。 ただし物件の売却予定・融資条件・家族構成など個別事情で最適解は変わるため、 具体的な数字が見えた段階で税理士に試算を依頼するのがおすすめです。 - Q2. 今持っている物件を法人に移すと費用はかかりますか?
かかります。法人への譲渡には不動産取得税・登録免許税、 個人側には譲渡所得税が発生し得ます。 ローン付き物件は借換えも必要です。 このコストを避けるため、新規購入物件から法人名義にするほうが 移転コストは小さく済みます。 - Q3. 法人化すると青色申告特別控除65万円はどうなりますか?
法人には青色申告特別控除の制度自体がありません。 代わりに、役員報酬を受け取る側の給与所得控除(最低55万円)や、欠損金の10年繰越など法人独自の仕組みを使います。 65万円控除を失っても法人化のメリットが上回るかが判断ポイントです。 - Q4. 合同会社と株式会社どちらがよいですか?
家族経営の資産管理会社なら、設立費用が安く(約10万円〜)、 決算公告義務がなく維持もシンプルな合同会社が選ばれることが多いです。 対外的な信用力や、増資・事業承継の柔軟性を重視するなら株式会社。 用語の詳細は不動産用語集もご覧ください。
まとめ
法人化の目安は「合算後の課税所得900万円を超え続ける見込みが立った時」。 メリット(税率差・所得分散・経費拡大・赤字繰越10年・相続対策)と デメリット(設立維持コスト・均等割・移転コスト・長期譲渡20%の喪失)を天秤にかけ、 新規物件から法人名義にする王道パターンを軸に、 まずは自分の課税所得を毎月正確に把握するところから始めましょう。
本記事は一般的な情報提供であり、個別の税務判断については税理士等の専門家にご確認ください。 記載の税率・費用等の数値は2026年時点の情報に基づきます。
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